ときはめぐり
めぐるとも
いのち謳うもの
すべて
なつかしきかの人に
おわりなき
わが想いを
はこべ
わが想いを・・・・
はこ・・・べ・・・
池田理代子著「ベルサイユのばら」集英社 マーガレットコミックス8巻より
A君へのレクイエム by ままか
7月13日、戦いの中だれよりも愛して止まない人の咳を耳にしたアンドレ・・。それは「反射」的な行動だったのでしょう。我を忘れて飛び出します。そして彼は、そのひとの盾となるような形で撃たれました。
アンドレの臨終の詩(うた)・・・、美しい詩句。(理代子先生のこの詩に代表されるような詩的な言いまわしはベルばらの大きな特質として深く愛しております!) この詩が昔から、例え様もなく好きで、全編中一番胸に突き刺さるフレーズです。
「ひとは生きたようにしか死ねない」、とはある癌専門医師がたくさんの患者の臨終を見て言った言葉なのですが、・・・死はその人生の集約だと。・・・・アンドレの臨終はまさに彼の生き様を象徴しているように思えるのです。 彼は最愛の人オスカルへの美しい賛辞と不滅の愛をいのちそのもので謳い上げながら亡くなります。この死に方って例えようも無く美しくて、理代子先生の傑作中の傑作ではないかと。・・・この美学が好きなんです。
そこにあるのは未練でもなく、ましてや悔いの一欠けらさえもなく、ただ愛するひとの為に生ききった生命の充足さえ感じられる。・・・彼の生き様を肯定しているようで、私は先生がこの上なく美しく描いた彼の死の場面、これを心から讃えたい!のです・・・。こんなに美しい臨終の場面って他にあるでしょうか・・・・。わたしはこれが彼には一番ふさわしい美しい死ではないかと思われるのです。
私がベルばらを不朽の名作と感じる理由の一つはこうした「死」の描き方なのです。OA(これにA陛下を加えてもよし)の死はあくまでポジティブに描かれていると思います。これが好きなんです。 O様のように自分の人生を讃えて死ねたらどんなに素晴らしいでしょう。 死をただの哀しみではなく、ポジティブでプラスなイメージに演出したことがベルばらのすごさだと・・・私は思っています。あの臨終の描き方は哲学的でさえないかと・・・。あんな風に後悔のかけらもなく一念の定まった死って理想的ではないでしょうか? 私はオスカルの生き方は「こう在りたい」と思う人間の理想の姿だと思いますが、二人の死に方についても同じく理想を見るんです。
・・・・アンドレの死に行く意識の中に浮かんだのはただ、愛する人オスカルのことだったでしょう・・・。いえ、オスカルのこと以外浮かびえなかったのだと・・・。それがあの尽きることのない、愛するひとへの溢れ出る想い。
これほどまでに胸を打つ言葉があるでしょうか?確かに現実離れしてきれいすぎると受け取る方はいるかもしれません。しかしもっと現実的な死は理代子先生の他の著作にたくさん描かれています。まるで天上の音楽の調べでも聞こえてくるかのような美しい死の場面は先生の「人生のキラ星のような瞬間」にこそ描かれたものでした。だから心の琴線をかき鳴らすのだと・・・。これこそベルばらにしかない輝きのひとつであると私は心からの賞讃を贈りたいです。ベルばらという作品はリアルさより、「美意識」をこそ重視する作品であると思うのです。 もともとアンドレ自体、私はリアルな男性ではないと受け止めています。彼は女性の夢,願望で出来てるみたいなところあると思うんです。だから思いっきり現実を離れて理想化した死に方の方をしてもいいと思うんです。その方が彼にはふさわしいのではないかと・・・・。
ただ最後の瞬間に愛するひとにそばに居て欲しいと何度思ったかしれません。ですがあの詩にはふさわしい情景であったのかもしれません・・。カメラワークをひいて、オスカルの全身をアンドレの視界(心の中の)に入れることで、あの詩が最高に映える形になったのかもしれないのだと・・・・・・。O様もA君も理代子先生がおっしゃるように作者の手を離れ自ら動き行動しています。あの場面もまさしく彼らが欲するままに自然にああ動いたのかもしれません。アンドレがああ謳ったのを理代子先生が書き表しただけかもしれない・・・と。
私は、彼はO様への愛を貫き、"結果的に"彼女を守って死ぬことが出来た自分の人生に後悔がなかったのではないかと思います。「我々の心を震わすような美しい詩」とある方がおっしゃいましたが、その通りだと思います。未練な悔し涙だったら、もらい泣きはしますが、あの溢れ出さんばかりの感動、それを得ることができるでしょうか。ただ単に哀しく涙する場面ではなく、アンドレのオスカルに対する愛の深さに打たれて、深い悲しみの中にも、「ここまでひとを愛せるものだろうか」と、例え様もなく美しい光景を垣間見た驚愕にも近い感動に包まれるのです。だから、あの原作の死の場面が最高に好きです。そして心の奥底に深く深く突き刺さって、永久に人の創り出せる「かくも美しい情景」として心に刻まれて離れないのです。
最後に・・・・・
・・どうか、どうか!何度生まれ変わってもまたオスカル様とめぐり合って幸せに・・・!。こんな祈りを今日心から貴方に謹んで捧げます。
2001年7月13日 ままか
掲示板に書いた私の発言をもとに大幅加筆、修正しました。