Les Amants
―二人が愛し合うのに、理由などいらない、
二つの魂がお互いを選び取り、引き合ったのだ―
アマンドの花びらが雪のように風に乗りながら空に高く舞いあがり、そして足元に
下りてくる。華やかに咲き誇り、そして潔く散り行く花。人の世の儚さと美しさを物
語るように、甘い香りを辺りに漂わせながら、はらはらと散り急ぐ。その花吹雪の
中、吹き抜ける南風に沸き立つような金色の髪を躍らせて女がたたずむ。花びらの白
い色が、女の白い肌をさらに白く染め、その中に浮かぶかんばせはわずかながらに薔
薇色に染まって輝く。
アマンドの木の陰から男が現れ、女の肩を抱こうとした。女は男のかいなから逃れ
て身を翻した。男の黒い髪も花吹雪にもてあそばれる。女が振り返りながら輝かしい
笑顔を男に投げる。そのまま女は木の幹を回りこんで、後方から男に近づき、背後か
ら男の肩に自分の頬を寄せ、そして己の体を彼の背中に重ねた。二人は手を自然に絡
ませると、男はそのまま女の手を己の唇に持っていく。女はもう片方の腕を男の体に
回した。
男がその腕を捕らえ、くるりと体勢を変えて、アマンドの幹に女を押しつける形に
なった。男の唇が女の耳元から首筋に滑っていくと、女の顔は恍惚の中にも誇らしげ
な輝きを放ち、やがて二人は唇を重ね合った。
空は抜けるように青い。悲しくなるほどに。空高くにひばりが飛び、その鳴き声が
遠くのほうから響くように聞こえる。何もかもをゆるゆると優しく包み込むような季
節の中、恋人達はくちづけを交わし、抱き合い、そしてアマンドの木の根元にもたれ
掛かってまどろんでいた。
黒い髪の男―アンドレ・グランディエは金色の髪の恋人、オスカル・フランソワを
腕に抱きながら思っていた。
―俺は何故、こんなにもオスカルを求めるのだろうか・・・。
彼は愛しそうにオスカルの髪にくちづけた。
―そうだ・・・この黄金の髪がいつも俺を導いていた。どんな群集の中にあっても、
常にこの黄金色の髪に俺は引き寄せられるようにオスカルを見失うことはなかった。
彼は自分の胸に身を預けてまどろんでいる恋人の髪をまぶしそうに見つめた。
―そして、俺の心がどんな迷いの中にあっても、いつもこの黄金の髪が俺をあるべき
道に導いた。
オスカルの髪に白い花びらが舞い降りた。アンドレはその花びらを指で摘み上げ、風
の中に戻してやると、花びらがふわふわと風に乗り舞いあがる。その様を見ながら、
アンドレは己の心の声に耳を傾けていた。
―俺はいつのまにかお前を愛していた。一緒に育ち、男同士のような関係だった俺た
ち。兄弟のようにお互いの何もかもを理解しあっていた俺たち。だが、俺は一人の男
としてお前を求め続けていた。身分違いだと、何度あきらめようとしても、どうして
もお前を愛することを止められなかった。お前の何がそこまで俺を捉えたのだろうか
・・・。
お前の美しさか?いや・・・ちがう・・・。お前の潔さか・・・それだけではない。
俺にはお前の存在全てが愛しい。
アンドレは再びオスカルの髪にくちづけた。
―俺が惹かれて止まないのはお前の魂の輝きなのか・・・。その輝きに導かれるよう
に、俺はお前を愛さずにはいられなかった。お前の魂の鼓動が俺の心の奥深くに伝わ
り、染み入って、そして俺の魂もそれに共鳴するかのように鼓動する。お前の心に俺
がいなかったときには、それは甘くて、そして残酷なエクスタシーに変わっていた。
お前への想いが俺の全てを支配していった。こうしてお前を腕に抱いている今は・・
・、俺は己の全てでお前の魂の鼓動に応えようとしている。
オスカルは恋人の腕の中で白い花の合間から見える己の瞳のような色の空をまぶし
そうに見上げていた。暖かで優しい風が彼女の鼻先をくすぐるように通りすぎる。そ
の風が彼女の精神を開放して、素の姿を導き出す。
―わたしは何故こんなにもアンドレを愛しているのだろう・・・・。
オスカルは恋人の胸の温かさを確かめるように自分の体に巻きついているアンドレの
腕を自分の手を重ねた。
―気がつけば、どうしようもなくアンドレを愛していた。お前を思うと何故こんなに
胸が苦しくなるのだ・・・。何がわたしをここまでお前にのめり込ませるのだ?
オスカルは己の心に問いかけた。
―私を捉えて離さないのは、お前の優しさか?いや・・・それだけではない・・・。
私を安心させるのは、お前の大きさか?それもある・・・。
お前を愛する理由はたくさんあり過ぎて、そして・・・何もない・・・。思慕だけが
あふれ出てくるだけで、理由などどうでもよくなってしまう。ただただ、お前が愛し
い。
暖かい光が二人を包む。
―そうだ・・・理由などないのだ。初めて出会ったあのときから、私とお前の魂は、
当たり前のように寄り添った。多分それは私自身も無意識だったのだ。ずっとお前が
私の側にいることを当たり前に思っていたのだから。私は・・・お前に辿りつくま
で、遠い遠い道のりを歩いてしまった。傷つき、涙しながら、私がやっと辿りつき、
手に入れたのは、こんなにも近くにある確かなものだった・・・。
アマンドの花吹雪が、風に吹かれて優しく二人に降り注ぐ。運命の恋人たちを包み守
るように。
二人は一緒に母の胎内にいるようにアマンドの枝の下で寄りそう。
多くの理由など二人に必要はない
二人の魂が引き合い、結び合った
これこそが真実
白い花吹雪の中、二つの魂は、
やっと見つけた片割れを優しさを込めて抱き合う
・・・・・これこそが、愛―。
Fin
☆☆☆☆☆Geminiのひとりごと☆☆☆☆☆
ソメイヨシノに風情が極似のアーモンドの花吹雪の下のOA・・・。これは夢かうつ
つか・・・。もしかしたら天国での二人の姿なのかも・・・。
(余談ですが、自分で読み返してあまりのナルシスティックな文章に赤面した私でご
ざいます。ハズカシーー!!)