ママン、泣かないで!    Monicaさん 作 /  Micia様 訳
        (原題「(近未来からの)手紙」 )
     http://digilander.iol.it/la2ladyoscar/Fanfics/Monica/lettera.htm


 準備が整ったみたいだね・・・

 僕たちのうちの何人かが旅立つんだ。地上に送られるんだよ。僕も。
とっても幸せさ!僕たちはみんな二人のことを知りたがっている。それで、
僕はいちばん羨ましがられているんだ。とっても長い間、二人のあとを追って
眺めているんだもの。僕たちには、それができるからね。僕のママンと父さま。
二人とも、この上もなく美しい。みんなが羨んでいるんだ。今もね。僕は今、
無限の天空にいる。二人を見つめながらね。

 ああ!二人を見て!大きな樫の木に寄りかかって、草の上に座っている。
ママンが父さまの腕のなかにいるんだ。僕には理解できないことを語りあっている。
革命って言っているね・・・ちょっと悲しげな眼をしている・・・
いったいどうしてなんだ?僕には、わからないよ。

 二人が暮らしているのは、とっても美しいところさ。もう僕は二人と一緒に
いたくてたまらないよ。アラスっていうんだ。フランスにある。父さまがママンの
髪をなでて、額にそっと口づけをしてるよ。ママンが瞳を閉じる。父さまは、
力強くママンを抱きしめるんだ。もう、僕はうっとりと見とれてしまう。

 「何て幸運なやつなんだ!」僕はみんなに言われてる。その通りだね。
僕は二人を見てるよ。僕のママンはね。もう、とってもきれいなんだ。
豊かな金髪で、水のように透明なまなざしをしていて。勇敢な女性でもある。
意志が強いんだよ。ママンは、そうしていなくてはならなかったんだ。
病に冒されていたから・・・生きるために闘わなくてはいけなかったんだよ。
だから、父さまは・・・いつもママンのそばにいる。父さまも、とても
麗しいんだよ。それに、優しさに満ちあふれた大きな心を持っている。
強くて、誠実でもあるんだよ。二人は、毎日、一緒に遠乗りに出かける。
永遠にそうしていてくれたらなって思う。あんなふうにしている二人を
見ているのは、とってもうれしいことなんだ!二人は、風のように疾く
駆けるんだよ。ママンの隣に父さまがいる。父さまは、ママンがすぐ近くに
いるように、馬を操っているんだ。

 もう僕は二人と一緒にいたくてたまらないよ。ママンは僕に剣術を教えて
くれるだろうね。絶対にママンみたいに上手にはならないって、僕がすでに
わかっているとしてもね。父さまはね、乗馬を教えてくれるんだよ。僕も父さま
みたいに、すばらしい騎士になりたいよ・・・。二人が与えてくれるすべての
ことから、僕は自ら幸せを求めて生きること、幸せを守るために戦うことを
教わるんだ。正義の心を持った人間になることもね。ママンと父さまが、
僕のことを誇りに思ってくれるように、僕は全身全霊をかけるよ。

 悲しみに沈むときもあるんだね。ママンの心に生じる憂い。僕のことに思いを
めぐらすからなんだ。「子供を遺してやりたい・・・」ママンは、もう何度も
そう思っている。

 「あいつが産んだ子供が欲しい・・・」父さまも、そう思っている。
だけど、ママンは怖がっている。

 ママンが恐れているのは、もう長く患っている病気のために、いつの日か、
ママンの腕に僕を抱きしめることができなくなるだろうってことなんだ。ママンは、
そのことを一言も言わない。全部、ママンの心の中だけに収めている。

 父さま?父さまも、何にも言わないよ。ママンが、父さまのそばにいてくれる
だけで、とっても幸せなんだから。父さまは、そんなにもママンを愛しているん
だもの・・・二人は、これまでに、もう充分すぎるほど苦しんできたよ。
過ぎ去った年月にまとわりついた苦しみを忘れてしまわなきゃ。ママンは、
僕の存在について何にも言わないけど、父さまは、ちゃんとわかっているんだ。
でも、何にも言わないままだよ。ママンの状態がこれ以上悪くならないように、
そっとしているんだ。ママンの憂いが深くならないようにね。父さまは何度も
僕のことを考えているんだけど。ほら!今も・・・僕が二人を見つめている間にも。

 ママンの思いが、また僕に伝わってきた。涙が見える・・・だめ!だめだよ、
ママン!泣かないで!僕が生まれた後、しばらくの間、ママンの病気が
悪くなるって、僕はわかっているよ。とっても残念だけど。僕たちみたいな
赤ん坊は、小さな生命の断片にしか過ぎないときにまで、ママンや父さまを
苦しめてしまうものなの?

 僕にどんな名前をつけてくれるんだろう?でも、僕にとっては大したこと
じゃないや。どんな名前でもいいよ。僕はただ、ずっと二人のそばにいられれば
いいんだもの。僕が本当に望まれた存在でいられさえすれば。でも、僕には
わかってるんだよ。そうなるってことが。二人は、もうすでに、僕のことを
愛おしく思っているよね。今だって、僕の存在は二人の理想なんだし、二人の
心からの望みなんだよね。僕が、もうすでに、そして今も、ママンと父さまのことが、
ものすごく、ものすごく好きでいるのと同じだね。僕は、もう本当に二人の
ところに行ってしまいたいと思ってるよ。僕のママンと、そして僕の父さまと
一緒にいたいから・・・。

 僕はまた二人を眺めている。ママンが、すばやく涙をぬぐった。
父さまが、ママンを強く抱きしめて、ママンの顔を優しくなでている。
父さまは天使かもしれない。僕が、この瞬間には、まだ天使でいるみたいにね。
言葉を交わさなくても、ママンが考えていることがわかってしまうんだもの。
ママンが、あんな悲しげな思いにとらわれていると、僕はいやな気持ちになる。
父さまは、何かしなくちゃって思ってるみたいだけど。ママンに悲しげな顔を
させないためなら、どんなことでもって。そうだね。僕の父さまは天使だね、
父さまはわかってないけど。ママン。父さま。二人とも、恐れにも似た気持ちに
なってしまっているんだね。二人が共有したあの瞬間のことを、ほんの少しでも
口にすることに。あのときに語り合った二人の願いにも。二人が交わした言葉に
さえも。いやだよ!悲しみに沈んだりしないでよ!二人はまだ知らないけど。
でも、僕は生まれるんだから。もう、すぐに、生まれるんだから。

 僕のママンの名はオスカル。僕の父さまの名はアンドレ。僕はもうすぐ、
二人のところに行けるんだよ・・・。


Monica. "Lettera (da un futuro prossimo)". n.d. On line posting.
Laura’s little corner. 12 mar. 2001.

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