時を越えし思い 


 だんな様が部屋を出て行かれた。よかった、オスカルの処分はないのか。俺はオス カルのしたことが正しいと思っている。だが、平民のしかもオスカルの従卒の俺が、 だんな様に立てつく事がどういうことかも、わかっているつもりだ。だがそんなこと はどうでもよかった。俺のことなど。俺は、命をかけてもオスカルを信じる。あいつ は間違ってはいない。そして・・・だんな様にも信じていただきたかった。王家を守 るジャルジェ家の対面より何より、オスカルの行動をだんな様に受け入れてもらいた 
いと思ったが・・・。だが、きっと、だんな様もわかっていらっしゃっての行動だっ たのだろう、ジャルジェ家の対面と、娘を信じる父親の気持ちの間で揺れ動いていた にちがいない。そうでなければ、きっと、本当に俺を切っておられただろうから。 
 貴族に立てついたから、だんな様にたてついたから、それだけの理由で俺が殺され たとしても、今の世の中、俺は何の弁解もできないだろう。だが、俺はそんなことを 恐れはしない。俺が恐れるのは唯一つ、オスカルが不幸になること。あいつが意に添 わないことを強制させられて、悲しむのは絶対に見たくない。 
 幼いときから、オスカルは間違ったことは言わなかった。正しいことを正しいと、 間違っていることを間違っていると、そんな当たり前のことが言えない時代だ。貴族 の社会では嘘も方便とばかりに、物事の真実が華やかな表面に塗りつぶされていた。 
そんな中でもオスカルはいつも真正面から物事の真実に向かっていった。 
 そして・・・そんな鮮やかな生き様をするオスカルを、俺は、ただただ憧れの気持 ちで見ていた。だが、強く、輝いているように見えるあいつが、ほとばしる情熱の 持っていき場所がなくてバランスを崩したときに見せる脆さが俺を捕らえた。強さと 弱さ、輝きと翳り、正反対のものを心の中で持ちながらも精一杯のところでバランス を保ちながら生きている。守ってやりたいと思った。お前の真実を見つめる目が追い 求めるものを、俺も一緒に見たいと思った。混沌としたこの時代に、オスカルの生き 
様を近くで感じることで、俺自身も生きた証を得られる思った。だからこそ、俺はオ スカルを不幸にはさせない。あいつの真実を追い求める目が曇ったら、あいつが悲し んだら、俺の存在価値さえもなくなりそうだ。オスカル、俺はお前を信じる、どこま でも、そしていつまでも。 
 どうしたんだ、オスカル。処分はないとのことなのに、そんなに深刻な顔をして。  ・・・・・・・父親に殺されかけたのだから、しかたがないな・・・。 
  
 なんだ?いきなり俺の前に腕を出して俺を止めた。余計なことをすると怒るのか。 それでもいい、お前の命があるのだから。 

「アンドレ、私は無力だ。一人では何もできない。王后陛下のお情けで処分を免れ、お前の力で父上の刃を逃れ・・・。愛して・・い・・・る・・。」 

 俺は何かを聞き間違えたのか?それともこれは夢か?オスカルは確かに俺を愛していると言った。どういう意味だ。兄弟として愛しているということか。 

「私の存在など巨大な歯車の前には無にも等しい。誰かに甘えたい、誰かに支えられ たいと、そんな心の甘えをいつも自分に許している人間だ。それでも愛しているか ?」 

当たり前だオスカル。俺の一生はお前とともにあるのだから。 

「生涯かけて私一人か?私だけを一生涯愛しぬくと誓うか?誓うか?!」 

 あんなにも焦がれて止まなかったオスカルが俺の腕の中にいる。ほとばしる熱い思 いをただひたすらに押し殺して生きてきたのに、お前をこの腕に抱いてしまうと、俺はもう歯止めが利かなくなるぞ。オスカル、それでもいいのか。一度抱いてしまうと 俺はもうお前をはなせない、離さないぞ。 
 この十何年の思いが、俺の体の中を一気に駆け抜けている。苦しさも、愛しさも、 切なさも、全てを飲み込んで、俺の心が歓びに震えている。もう、押し殺さなくても いいのか。お前を愛しているということを素直にお前に伝えていいのか。どんなに俺 がお前を求めているかをお前に示していいのか。 
 オスカル、今こそ、お前に俺の思いを伝えよう。これまで伝えきれなかった俺の全 身全霊を込めた思いを。俺の唇からお前の唇に、俺の思いを注ぎ込もう。 
 胸が痛くなるほどの歓びがあるということを、俺は生まれて初めて知った。 

 


  

 情熱の赴くままのくちづけが俺とお前をつなげている。オスカルが俺の思いをしっ かとり受けとめている。もう、離さない。何があっても。 

 俺の胸に顔をうずめるオスカルの姿など、想像したことがあっただろうか・・・。 こんなにも近くに、俺の目の前に、お前の白い顔が、黄金の髪が・・・。両の掌をお 前の頬にやる。美しい・・・。お前の目は輝きを失っていない。みじんも濁ってなどいない。子供の頃と変わらず、いや、一層輝きを増して俺を見つめ返している。この 目の輝きだけで俺には十分だ。俺を愛しているというお前の言葉は、更に輝きを増し て俺の心に刻み付けられた。 
 そして俺は・・・、その瞳がこれからも濁らないよう、お前がいつも冴え冴えとした美しい眼差しをしていられるよう、俺の愛を、俺の命を、俺の魂を、全てをお前に 注ぎ込もう。オスカルを愛し始めた、あの頃と変わらず、お前こそが、俺の生きている証そのものなのだから。 


☆☆☆Geminiのひとりごと☆☆☆ 
某サイトで発表されたお話と同じフレーズで終わらせてます。発表の場所が違えども、私の中でのOAの心情は同じなもので・・・。 

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