碁草子   by 幽小納言(幽べる)様

 イケメンキャラの段


其の一  伊角慎一郎

伊角慎一郎こそいと労ありてまめやかなる人なれ。
大人しく、院生仲間のおぼえよろしく、頼むべき人ざまにて、進藤、和谷、その他あまたの輩、皆この伊角を慕ひたり。碁は、強く手堅きものなれば、やすく負くべくもあらねども、心のうちそこはかとなくもろき所のあれば、人のただ一言に惑ひて、本意なく負くるもあんめり。
唐土に渡りて、えもいはず厳しき碁の努めののち、その難もしのぎて、プロ試験にも通りたるは、ありがたきことにこそ。
されど、マウンドならぬ碁盤の前にて悩める姿は、「巨人の星」の星飛雄馬にも似て、かたはらいたくおぼゆるは、我のみなるか。女人の好みの方は知らず。思ひ人のおはするにや。

<口語訳>
伊角慎一郎は、大変経験を積んで、真面目な人です。
思慮分別があり、院生仲間での評判もよく、頼りになる人柄であって、進藤・和谷、その他の大勢の仲間たちは、みなこの伊角を慕っています。碁の腕は、強く手堅い手を打つので、簡単に負けるはずもないのですが、その心にどことなくもろい所があるので、他人のたった一言に惑わされて、不本意にも負けてしまうこともあるようです。
中国に渡って、なんとも言えぬほど厳しい碁の修行を行ったあと、自身の弱点も克服して、プロ試験にも合格したのは、滅多にないほどすぐれたことです。
けれど、マウンドならぬ碁盤の前で苦悩する姿は、かの「巨人の星」の星飛雄馬にも似ていて、なんとも見ていて笑止に思えるのは、私だけでしょうか。
女性の好みはわかりません。心を寄せている方がいらっしゃるのでしょうか。


其の二  楊海

楊海大人は唐土の人なり。
よろづの言をつかふ才、はた、得がたきものにて、伊角の唐土に渡りたる折には、碁の先達にてかたらひけるのみならず、通訳さへしけるとぞ。
「碁を打ちたると、生きたると、安んぞ異ならんや」
と言ふは、北斗杯にての、楊海大人の言葉なり。至言にこそ。
心安くあららかなれど、輩には細やかなる心遣ひをおこたらねば、頼もしげなる人とて、世の人大人になびきたり。
碁を打ちたるをば未だ細かには見ざるに、その強きさまぞ、おしはかるべき。
かつは、本朝の偶像をいみじう好みて、深田恭子など、聞こえたる若きをんな子をつばらに知りたるこそをかしけれ。
髪は、前はいささか長く、後ろの短きは、かの国の当流にや。
たてくびの髪の堅げなる様、すずろに撫でまほしうおぼゆるこそわりなけれ。
※たてくび……うなじ


 <口語訳>
楊海さんは中国の人です。
様々な言葉を使いこなす才能、また他にはないものであって、伊角が中国に渡った時には、碁の先輩として親しくしていただけでなく、通訳までしたということです。
「なぜ碁を打つのかも、なぜ生きているのかも、一緒じゃないか」
と言うのは、北斗杯での、楊海さんのことばです。至言でしょう。
気さくで、粗野なところはあるけれども、友人には細やかな心遣いを欠かさないので頼もしい人として、世の人は彼を尊敬しています。
碁を打っているところを細かに見たことはないのですが、その強さは想像できましょう。
一方で、わが国のアイドルをたいそう好んで、深田恭子など、有名な若い女の子をこと細かく知っているのは面白いものです。
髪型は、前は少々長く、後の短いのは、かの中国での流行なのでしょうか。
うなじの髪は何とも堅そうな様子で、むやみに撫でてみたく思われるのは(我ながら)困ったことです。


 
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