洋服を買おう♪
(ミニ佐為&ヒカル漫画「今きぬぎぬ」の続きの小話です)
「ヒカル〜、笑ってないで、もう服の取りかえっこ終わりにしましょう。こんなかっこじゃ落ち着きません。それにやっぱ(パンツはかないと)履き心地悪いですよ〜〜〜」
「そうだな、ま、確かにそのパツパツのTシャツと丈のたりねぇジーパンじゃな。しかも腹出てるし…」
「でしょ、でしょ。」
「よし!じゃぁ服買いにいくか!」
「え、服買いに行くって…この格好でですか!?」
「だってしょーがねぇだろ。」
「いえ、私が言いたいのはですね、たとえば、ヒカルのお父さんの服をお借りするとか…」
「ダメだよ。お父さん、オレに似て、背低いから、似たようなもんだぜ。」
「そうでしたっけ…?」
そう、ヒカルは既に父と同じくらいの背丈に成長していたのである。これから伸びても、せいぜい数センチがいいところだろう。佐為の身長を追い越すのは(作者の趣味ながら)絶望的と思われる。
ピンポーン。そこへ突然ヒカルを訪ねてきた者があった。
「おお、オマエいいところに来たな!」
「あの…こちらの方は?キミと囲碁を打とうと思ってきたんだけど。」
「それどこじゃないんだ。少なくとも、オマエの服の趣味のが、オレよりはこいつに合ってると思うんだ。おまえ、こいつに合う服買って来てやってくんねぇ?」
「え、困ったな。ボク、自分で服買いに行ったことないんだ。」
「1、一回もない!?マジかよ…。(どっかずれてるとは思ってたけどやっぱりな)じゃぁ、オマエの服、それいつもどーしてんだよ?」
「そうだね、うちに出入りしる○越デパートの外商の人がカタログを持ってきてくれるんだ。昔は母が買ってきてくれたけど、最近両親とも留守がちだからね。自分でカタログから選んで、持ってきてもらってるよ。」
「ガイショウ…?なんだよ、それ。」
ピンポーン。そこへ突然またヒカルを訪ねてきた者がった。
「おお、あかり、いいとこ来たじゃん。ちょっと、教えてくれよ。」
「外商? やだ、ヒカル、高級感溢れる○越デパートの外商さんが出入りしてるなんて塔矢くんちってやっぱさすがね。つまり、お金持ちのおうちに出入りするデパートの御用聞きさんってことよ。」
「へ〜〜っ。そ、そうなんだ。オレ、デパートで服買ったのなんて、スーツ作った時だけだぜ。おまえ、そういう普段着もデパートで買ってるわけ?」
「っていうか、ボクは他に何処で服を買ったらいいか分からないんだ。あれこれ迷ってる時間があったら、碁の勉強したいしね。」
「ほう、さすが塔矢ですね。その向上心は見上げたものです。」
心底感心したように、佐為はアキラを見つめた。
「い、いえ。」
アキラは少しはにかんだ。
「ぷっ、オマエ、そのかっこでそんな真面目なコメントするなよ、笑っちゃうだろ!」
「だ〜か〜らぁ、早く、このかっこをなんとかしてください!って言ってるんです!」
「あー、わかった、わかった。よし、じゃぁ塔矢、その外商の人、ここへ呼んでくれよ。」
アキラが携帯に登録してある番号へ電話すると、30分ほどして近くを回っていたという○越デパートの外商がやってきた。
「そうですね。お客様なら、これなどいかがでしょう?」
そう言って、外商が見せたのは、ヒカルにもチェック柄と馬のロゴマークに見覚えがあるメンズカジュアルだった。
「わっ、バーバリーね、かっこいい!佐為さんに似合いそう〜〜♪」
「そうだね、ボクはこっちのも良く買うよ。佐為さんにもどうかな?」
アキラが指したのは、やはりメンズカジュアルの服だったが、ロゴマークは今度は何かのスポーツらしかった。
「塔矢くんて、ラルフ来てたの!?(なんか見えないわね、いい服着てるんだから、もっとセンスよく着ればいいのに)」
「なんかこじゃれたマークだな。オレのはシンプルだぜ。」
と言って、ヒカルはとっくに狩衣から着替えていた自分のTシャツの胸の上のカーブを描いただけのシンプルなラインのロゴマークを指した。
「ヒカルはスポーツブランドかユニ○ロの服しか着ないもんね。」
「しかってことはねぇけどさ(ふん)。(でも、ぜんっぜん、あかりや塔矢の話題についていけねぇや)」
ヒカルは少しむっつりしたが、あかりは一人ではしゃいでいた。
「そうね、佐為さんなら、絶対、これが似合うわ!ほら、バーバリーのトレンチコート!うーん、それとも、ラフにラルフロールのチノパンなんかもいいかも〜。それから、シャツはね〜。」
と独壇場である。
そして彼女ににこにこと応対するのは○越デパートの外商だけだった。やや飽きてきた男三人は何時の間にか無言である。そして、数分のち、外商が言った。
「ではこちらのお嬢様のお見立てでよろしいでしょうか。一通り、シャツ、ボトム、ジャケット、靴下、靴、インナーとお選びいただきましたが…」
「ああ、いいよ!もうそれで決めてくれ。いいだろ?佐為。」
「え、ええ、私はよく分かりませんからあかりちゃんにお任せします。」
「では塔矢様をお通しということで、5%値引きさせていただきました上に、この際、たくさん購入していただきましたので端数を切らせて頂きます。」
「お!、悪いね!安くしてくれんだ、よし、オレ、おまえに何も恩返ししてねぇし、オレの手合い料でプレゼントだ!」
「ヒ、ヒカル〜〜、ありがとうございます〜〜(むぎゅ)」
「オレ、おまえに何かプレゼントしたいって思ってたんだ。佐為・・・・」
「・・・・・・・(楽しかったけど、ここにきてなんかヤな気がするわ)」
「・・・・・・・(碁を打ちにきたのに、ボクはナニをしているんだろう)」
「こほん、では大幅にお勉強しまして、30万円になります。」
「そっか、30万な、えっと財布… ……さ、さんじゅうまん〜〜〜っ!???」
「・・・(進藤はナニを驚いてるんだろう・・・・??)」
「・・・(やだ、どうしよう、値段のこと考えてなかった、私・・・こっそり帰ろうかな)」
「ヒ、ヒカル? あ、あの、無理しないでください。私、ヒカルの服でもいいですよっっ。ね、これも慣れれば、きっと・・・」
「い・・・・・いや、佐為から貰ったものを考えれば、お金になんか替えられないんだ。これくらい、大丈夫だよ。オレ、もうプロ棋士なんだぜ、これでも。(お年玉とあわせれば、なんとか買える・・よな?うん。) 佐為、気にすんなよ!」
「あ、あの待ってください。あのそちらの着物が気になっていたのですが…」
ちょっとまずい場の雰囲気を読み取ってか、外商が部屋の隅にあった狩衣を指した。
「これは上等な絹ですね。しかも、なんですか、神主さんが着るみたいな装束のようですが?着物生地自体がとても良いので、かなりな値打ちですよ。」
「え、その衣がお金になるんですか?なら、もう要らないから、なんとかお金に替えていただけないでしょうか?」
止めるヒカルに耳を貸さず、佐為は外商の男に、狩衣や単、袴を引き取ってもらえないか交渉した。
「はい、それはもう、いかに高級なブランドの洋服も絹の着物一枚のお値段には及ばないものです。ではお借りして、デパートのテナントに入っている呉服店に問い合わせてみます。お支払いはそれ以降で結構ですよ。なにしろ塔矢様のご友人でらっしゃいますから。お買い上げいただきました洋服の方は、さっそく夕方にもお届けにあがります。」
そう言うと、外商の男はほくほく顔でヒカルの家を後にしたのだった。
終わり
続きはミニ佐為&ヒカル漫画「夜桜見物」へ
|