陰陽師の忠告 ーおまけー

 

「それから・・・・」
「なんだよ、賀茂」
「ちょっと聞きたいんだが・・・・」
「なんだよ」
「・・・・・・・・・」
 光はぽかんとした表情で明の言葉を待っていた。
 しかし明は先ほどの威勢の良さから一転して、何やら口ごもっている。
「なんだよ?」
「君らは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「だから、早く言えって!」
 明は自分の方が背が高いくせに上目遣いに光を睨んだ。心なしか少し顔を赤らめている。
 彼は搾り出すように言った。
「い、いつから一緒に住んでるんだ?」
 これを聞いて光は大きい目をいっそう見開ききょとんとしている。
「はぁー?なーに言ってるんだよ、賀茂。
 一緒になんか住んでないよ。オレ自分ちちゃんと帰ってるぜ。毎日」
「しょ、正直に言ったらどうだ。さっき『なかなか寝かせてくれない』とか『寝相が悪い』とかって言ってたじゃないか。キミたちは床を・・・・」
「あー、あの話、おまえ聞いてたのかよ!」
 光は思いっきり眉をハの字に下げて、呆れた調子で言った。
「そりゃ、佐為の家にたまには泊まってくことくらいあるさ。それがどーしたって言うんだよ!何か文句あんのか?こないだだって、ちょっと話し込んじゃって遅くなったから泊まらせてもらっただけだよ」
「・・・それだけの話か?」
「それだけだよ!」
「本当にそれだけか?」
「それだけだってば!何なんだよ。一体!!」
「・・・・いや、すまない。なら、いいんだ」
「わっけわかんねーなぁー。もう」
「だからただ。・・・
ボクが言いたいのは、要するにだ。ああいう、人から誤解を招くような話をだな、誰が聞いてるとも知れない宮中で大きな声を出してするな、ということだ」
「あんなたわいもない話もいけないのかぁ?」
「そうだ。宮中にいる時はもっと周りに目をとがらせろ、でないといつか揚げ足を取られるぞ」
そうぶっきらぼうに言い放ったと思うと、明はくるリと踵を返して行ってしまった。
「・・・・なんだよ。あいつ。・・・・誤解って。何をどーいう風に誤解すんだよ。やっぱどっか変だな、あいつは」
 光は本当にわけがわからないといった風にぽかんと明が去っていくのを見おくっていた。



明は怒った顔をしながら、早足に渡殿を歩いていく。
その時たまたま、すれ違い様に明の独り言が耳に入った、とある女房はこんな言葉を聞いたという。
「・・・だが、寝相が悪い?・・・。なんだ、それは・・・。同じ御帳台で寝てるのか、彼らは。・・・信じられない」


つづく

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