防人の歌九

 

 

 博多津に 月の雫の 舵を持ち こがるる想ひ 君に届かな

 光は博多津を警備しながら、ふと呟いた。このごろはそんな風にごく自然に歌を詠むようになっていた。

 あれから何度目だろう? また下弦の月だ。
 あの月を見る度に思う。
 都に上る人に託したオレの想いは届いただろうか。

 結局、光はあんなに練習した歌を都に送ることはなかったけれど、幾度と無く月を見て都に居る人を想ったのだった。 

 寒い! すっかり冬だ。冬の夜の港の警備なんてきつすぎる。
 師走に入って、海賊の取締りも厳しい。
 こないだ捕り逃がした盗賊たちがまたいつ港に現れるとも知れない。
 そう思う光の背後から声がした。
「おう、交代や」
 光に声を掛けたのは社だった。
「うん、じゃぁ、後よろしくな」
「ああ」
 光は馬にまたがると博多津を後にした。下弦の月に照らされた夜道を駆ける。下弦の月が顔を出すのは遅い。したがって、時刻はもう深夜だった。身震いする程冷え込んでいる。ここのところ、雨も降っていない。冬特有の乾ききった空気が光の身を突き刺していた。
 だがそのせいか、夜空は晴れ渡って金銀七宝を散らしたように星が綺麗だった。

 光は馬を半刻程駆けたところで、ふと行く手の空が赤く照らされていることに気付いた。
 「なんだ、あれ?・・・・・政庁の方角・・・・・!?」
 光は独り叫んだ。そして馬の腹を思いっきり蹴ると、今まで駆けてきたよりも早く駆けた。いよいよ近くまで来ると、何が起きているか光の目にも明らかになった。
 大宰府政庁が燃えているのだ! 光は東楼と西楼から上がる真っ赤な焔と黒い煙を見た。
 何てことだ! 大変だ!
 夜中にも拘わらず、政庁前の広場にも、そこから南に延びる朱雀大路にも、人々が一杯だった。皆大騒ぎしている。いつもはこの広場に出ると大路を下り、社の館に向かうところだった。しかし光は馬を降りると、南門前に出来た人垣に駆け寄った。そして人垣を押し分けて、政庁南門の直ぐ脇の白い築地塀の近くまで歩み寄った。すると、そこには顔見知りの検非違使たちが居た。皆成す術もなく呆然としている。
 光は声を掛けた。
「おい、中に誰かいないのか? 皆逃げたのか?」
「いや・・・それが」
 そこに居た検非違使の誰もが口篭もった。
「どうしたんだよ!」
「それが・・・帥殿が宿直していて、そのままだ」
「なんだって!? まだ帥が中に居るのか?」
 光はそれを聞くと、門の中へ入って行こうとした。
「やめろ、もう無理だ」
「そうだ、これだけ火の手が回っては、死にに行くようなもんだ! やめろ!」
「だって帥がまだ中に居るんだろ?」
「帥だけじゃない。他にもまだ逃げていない方々が居るはずだ。今夜は帥を始め、主要な官人方のほとんどが政庁に宿直していたんだ」
「タイミングが良過ぎる・・・これはきっと放火だ」
「そんなこと、今言ってる場合じゃないだろ!? 少しでも中にいる方々を助け出さなきゃ!」
 その時聞き覚えのある高い声が光の耳に入った。
「そこを通しなさい! 早く!」
「駄目です。中門より先は火の手が回っていて、とても無理です」
「いいから私を通しなさい! あなた達は皆、腑抜けですか? どきなさい!」
 そう言うと、その人物は鞘から剣を抜いた。
「さぁ、私を通すのです!」
 周りを囲んで、その人物を塞き止めていた衛士たちが、後ずさりした。
 すると、光の目にもその人物の姿があらわになった。烏帽子に水干、ああ、そして懐かしい美しい横顔。
 光はその人物が誰か認めると人垣を掻き分け走り寄った。
「紫殿!」
 しかし、彼女が光に気付き、気が緩んだ隙だった。衛士の一人が紫の腕を掴んだ。紫の剣は地面に落ちた。
「何をするのです! ああ、光殿ではありませんか! どうか、この人たちをどかしてください! まだ中に帥がいらっしゃるのです。私を通しもしないくせに、誰一人中に助けに行く者もいません! この腑抜けた人たちをどかしてください、光殿!」
「おい、その人を放せ!」
 光は紫の腕を押さえていた衛士に叫んだ!
「なんだ、おまえは!?」
 衛士は言った。
「その人は帥の奥方だ! 乱暴なことをするな! 放せ」
「なんだって・・・!」
 衛士は紫を放した。
 紫は剣を拾うと、光に歩み寄った。
「光殿、有難う。帥殿が、通匡様が、まだあの中に。どうか、私を行かせてください! 助けてください! この人たちが邪魔をするのです、光殿!」
 紫は、必死に光に訴えた。
 紫の真剣な瞳に、光は目を見張った。そして瞬時に腹は決まった。 
「わかった! 紫殿、じゃぁオレにその剣を貸して! 紫殿より、オレの方が中のことをよく知ってる! オレが代わりに行ってくる! あなたはここに居るんだ、いいね」
 そう言って、紫の剣を手にすると、呆気にとられる彼女を後に光はもう走りだしていた。走りながら、衛士に尋ねた。
「おい、帥は何処に居る!?」
「おそらくは正殿に・・・」
「分かった!」
 そして南門の下を潜ると、紫を振り返って光は笑って見せた。
「ほら、二刀流だよ!」
「おい、待て! 近衛!!」
 仲間が呼ぶのを後に、光は走った。
 朱塗りの柱に支えられた大きな南門を潜ると、東西に衛門舎が建っている。
 衛門舎にはまだ火の手は回っていない。衛門舎の間に中門が見える。
 なるほど、中門の向こうには焔が見えた。
 光は中門をも抜けると、正殿前の内庭に出た。
 内庭は広い。この広さが在れば、少なくとも、ここは無事だろう。見込んだ通りだ、と光は思った。
 しかし、内庭を東西に囲む、回廊には焔が回り始めていた。ふと七夕の夜に居眠りして寄りかかった柱の辺りが目に入った。もう火の手が回っていた。
       あの時、オレはおまえに逢ったよな!? そうだろう!? 聞こえるなら、答えてくれ  !!
 かくして、正面に見える正殿は燃えていた。
 いや、まだ勝算はある。光はそう見込むと、迷わず正殿に足を踏み入れた。そして階を上ると、叫んだ。
「何処だ? 帥殿ー! 緒方様ー! 何処に居るんだ!??」
 しかし、奥は思ったよりも煙が充満していた。光は咳き込んだ。
「くそ! 帥殿ー!! 何処だよ! ったく」
 光は燃え盛る焔の中をかいくぐって走った。
 しかし、何処からか充満してくる灰色の煙に視界が悪い。
 光は再び、咳き込んだ。
 ・・・苦しい。
 光は・・・視界が揺れるのを感じると、一瞬頭は真っ白になった。
 そして足許がふらつくのを感じた。すると、知らぬ間に、土間の床に手をついていた。
 その後は意識は遠のいていくばかりだった。
 ・・・あれ、どうしたんだろう。体が動かない? しまった、こんなところで。
 まだ帥を見つけていない。どうしたらいいんだ。薄れる意識の中で、光はぼんやり考えた。
 咳は後から後から出る。口元を押さえたが遅い。頭が重い。どうしたらいい!?
 光はどうしようもなく、その場にうずくまってしまった。
 ああ、オレがうかつだったのか? どうしたらいい・・・!!佐為!

 それはほんの僅かな間だったのかもしれない。光が気力を失いかけたのはほんのしばしの間だったのかも・・・。
 しかし、少年には長い時間に感じられた。にわかに死の恐怖が襲った。薄れていく苦しい意識の中にも、後悔に苛まれた。
 人を助けるどころか、自分が死ぬなんて  
 待ってくれ! オレはまだ都に帰っていない!!
 ところが何処からか声がした。薄れ行く意識に何処かから、しっかりと声が響いた。自分を呼ぶ声だった。
 まるで霞が掛かった風景の中に、其処だけ光が差した様に、その声だけが鮮明な音となって響いた。
 そして目の前に差し出された掌が見えた。 
 その声にまるで奮い起こされるような、いや、揺さぶられるような感覚を覚えた。
 次の瞬間、光はその掌を掴み、上半身を起こしていた。意識は覚醒していた。
 もう其処には先程の霞に包まれたような意識の混濁は無かった。
 だが、目の前に社が居た。掴んだのは社の掌だった。
「社!?」
「騒ぎを聞いて、駆けつけてきたんや。おまえもむちゃしよるな。さぁ、こっちや!」
 声の主は社だったのだ。
「腰を落として進むんや!」
 オレと社は這うように、煙の下を進んだ。手水の間だ! そうだ、正殿の北側の端にある! 光達は柱を何本も通り過ぎ、妻戸を押し開けた。其処には水の入った瓶が置いてあった。柄杓で乱暴にくみ上げ、頭から被った。そして、着ていた衣を切り裂くと口に押し当てた。
 それから、また腰を低くして走った。
 すると朱塗りの柱の陰、緑の連子窓の下に人影を見つけた。倒れているその人物の顔を確認すると、肩に腕を回して起こした。光よりずっと体格のいい、その男は酷く重くて、難儀だったが、社が居たからなんとかなった。二人で力を振り絞った。
 其処から先は、ただただ、光は必死だった。だから、途中のことはもう覚えていなかった。
 ただ、帥を紫の君に引き渡した時に、彼女が泣いていたのだけは覚えていた。


 次に光が目覚めた時には、御帳台の中だった。
 絹の褥に絹の衾。天井には明り障子。
 帳のめぐらされた寝具に眠るなんて、一体何時以来だろう、と光は思った。
 こんな・・・こんな白い帳の中に目覚めると、いつも隣にあいつが居たんだ・・・。
 光の脳裏にはにわかに懐かしい記憶が甦った。
 記憶の引き出しから手繰り寄せられるどんな出来事も、幸せなものばかりだった。
 どうして出逢ったのだったか。最初に逢ったとき、何を言われたのか。そして自分は何と言ったのだったか。思い返すだけで、満ち足りた幸せな思いに溢れた。
 しかし、その夢とも現ともつかぬ思い出の中に埋もれていると、突然声を掛けられた。
「気がつかれたのですね」
「・・・・・誰かと思った」
 光は褥の上に起き上がった。
 声を掛けたのは紫だった。紫は御帳台の外に腰を下ろしていた。だがそのなりは見覚えのある姿とは違っていた。紫は今日は水干ではなく、紅の袴に袿を掛けていた。紫に会うのは、何ヶ月ぶりだろう? 炎上する政庁南門前の喧騒の中で、彼女と言葉を交わしたはずだった。だが、今はとても静かな屋敷の中に居た。
「ここは・・・?」
「数ヶ月前まであなたがいらした帥のお屋敷です」
 紫が居るのだから、それはそうだろう。はっきりしない頭で光は考えた。
「傷は痛みませんか? たくさんの火傷を負われたのですよ、あなたは」
 そう言われて光は自分の体の節々が痛むのに気がついた。慌てて、自分の体を見回した。あちらこちらに手当てした跡がある。そして、焔の中を潜ったことを思い出した。
「・・・帥は!?」
「ご無事です、光殿。あなた方のお陰です。通匡様は生きておいでです」
「良かった! そうだな、あの人が簡単に死ぬわけないさ。ははは」
 光は大口を開けて笑った。
 光は笑ったが、紫は笑わなかった。彼女は、神妙な顔をして俯いた。それで光も直ぐに黙った。それに笑うと、体の節々も痛むことが分かった。
「そういえば、社は・・・?」
「あなたのご友人のことですね。あの方はご自分のお屋敷で養生されています。あなた方お二人はとても勇気がおありでした。心から、ご立派と思います」
「・・・そんな・・・へへ。誰だって、あなたを火の中に行かせることなんて出来ないよ」
 光は赤くなって頭を掻いた。
 不思議だった・・・。
 あんな風に別れた紫殿と普通に話せる。何事もなかったみたいに・・・。時を置くことの意味とはこういうことなのだろうか。
 それに紫殿は・・・。
 光が思いを巡らしていると紫がやはり神妙な面持ちで口を開いた。
「政庁に火を付けたという容疑で高麗の海賊たちが捕らえられました」
「高麗の海賊達?」
「ご存知でしょう。海賊の横行は長きに渡って大宰府を苛んできました。通匡様が赴任なさってから、海賊の取締りが殊に強化され、彼らの不満は募っていたようです。先般捕らえられた高麗の海賊達を、仲間達が救い出し、政庁に火を放ったと・・・」
「そう言えば、昨日も聞いたよ! きっと放火だって」
「そう・・・ですか」
「どうしたんだ? 紫殿」
「いえ、何でもないのです。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「いえ・・・、誰か見た者でも居るのでしょうか」
「どういう意味?」
「あなた方の勇敢な行動で、通匡様は助かったけれど、逃げ遅れた幾人かの方々は亡くなったのです。それにあの政庁の建物も焼けて無くなりました。海を渡ってもたらされた、宋や高麗、もっと遠くの国々の貴重な品物も一緒にです。未だ、南門の先からは煙が上がっています。・・・このような大きな災難に出会うと、人は、何処かに責任を求めたくなるものです・・・」
 光にも紫の言いたいことが分かった。
「紫殿・・・、海賊達の仕業じゃないと?」
「いえ、私には分かりません。本当に彼らの仕業なのかもしれません」
「でも・・・もし、彼らの仕業じゃなかったら?」
「彼らの仕業でなくとも、彼らが罰せられるのでしょう。少なくとも、ただの火災よりは、色々な人たちにとって都合が良いからです。しかも外国人です・・・。何でも悪いものは海の外から入ってくるというのは迷信です。海賊はむろん、取り締まるべきです。船を襲い、時には浜辺に降り立ち、人を襲う。そして略奪、暴行、殺戮・・・野放しにしてはいけない、そう思います」
「紫殿の言う通りだと思う、オレ。オレ達の仕事は本当の悪党を懲らしめることなんだ。だからオレ達がこの筑紫を、九州を護っている。この地は、日本の玄関だろう? いつも矢面に立ってきた・・・」
「・・・・・・光殿、あなたは防人(さきもり)の歌を・・・ご存知ですか?」
防人(さきもり)の歌・・・?」
「そう、防人たちの歌・・・。故郷を離れ、西海の防ぎに送ってこられた者たちの哀歌・・・・・」
「ごめん、わかんないよ。どんな歌があるの?」
「例えば・・・こんな歌があります。
  闇の夜の  行く先知らず  行くわれを  何時来まさむと  問ひし児らはも
 
「何か、胸が痛くなるような歌だね・・・」
「そうですね・・・・・胸が締め付けられるようです。ですが、だからなのでしょう。都の雅な方々の間では万葉集が忘れられてしまったのは・・・」
「ごめん、オレが知らないだけだよ。勉強サボってたからなぁ・・・今、いろいろ読んでるんだ、オレ。でも、正直とても万葉集までは手が回らない・・・」
 光は先程とは別の恥ずかしさで頭を掻いた。しかし、紫は目を細めて光を見つめた。
「あなたは・・・また、何処か精悍になりましたね、光殿」
 彼女は光を真っ直ぐに見詰めてそう言うと、静かに語った。
「万葉集を紐解くといにしえの人々の勇壮で率直な情感を詠んだ歌の数々に出会えます。
 特にこの素朴で悲痛な防人の歌・・・・・。
 あなただけが知らないわけではありません。雅を好む都人にはそれほどかえりみられないけれど・・・・・でも、当今の歌とはまた違った意味で、私には心惹かれるものがあるのです」
 ・・・・・縁語に掛詞。駆使される技巧。それだけじゃない、美しく染められた紙に焚き染めた香。添えられるのは季節の草花・・・・。それらを光は思い返した。他ならぬ紫から教えられた趣向の数々だった。
「ふう・・・ん。そうか・・・確かにそうかもしれないな」
「では、白村江(はくすきのえ)の戦いの事は?」
「ああ、それなら知ってる。このあいだ『日本紀』を読み返したよ。百済に荷担して、唐や新羅と戦ったんだろう」
「本当によく勉強してらっしゃるのですね・・・・・。そう、そして惨敗した・・・。あの頃から防人は筑紫に置かれるようになりました・・・。当時の防人といえば、遠い東国から妻子と泣く泣く別れ、この西端の地の護りの為に連れて来られた哀れな農民たちでした」
「・・・紫殿は凄いな・・・」
 光は、目の前に居る人の一筋縄では行かない聡明さに感じ入った。
「私は凄くなどありません。それは少し変わっているかもしれません。でも平凡な女です」
「平凡? あなたが? いや、オレやっぱり紫殿のことが好きだよ。・・・あ、いや・・・その、ごめん」
「ふふ・・・、あなたにそう言って頂けるのは光栄です」
 紫はにっこり微笑んだ。
 ふん、誰かみたいに余裕で笑うんだな。と光は思った。
 この人はもう何とも思ってないのだろうか? オレをあんな風に誘ったのに。もう何ヶ月も前のことだから?それとも、オレのことなんて気まぐれだったのだろうか? いや、昨日のあなたを見て、オレは分かったんだ。だから、この人はこん風に平気なんだ・・・。
 でも、それがどんな理由にせよ、この人はやっぱり何処かあいつと似ている。こんな風に、平然と答えるところも・・・。
 そう思いながら、光は改めて今目の前に居る人の圧倒的美しさに戦慄さえ覚えた。心から光は彼女の美しさに感じ入った。
 そうなんだ、この人の美しさは外側だけじゃないんだ。だから、こんなに美しいんだ。
 オレはどうして、こんなに心惹かれる人を女性として受け入れられなかったのだろう・・・。
 この人は帥の奥方だ。もちろん、それが第一の理由だった。でも・・・。
「光殿、ゆっくり休みなさい。しばらくはここで、怪我が治るまでご養生なさい。帥もそう望まれています」
「うん・・・、有難う」
 紫は光との距離を保ったまま、彼の臥所から去っていった。そして、少年は再び、御帳台の中で眠りについた。
 
 
 佐為、オレの手を掴んだのは社だった。
 でもオレは知っている。
 おまえがオレを助けてくれたんだ。
 だって、あの時、オレに聞こえたのははっきりおまえの声だった。
 いつもこうだ。おまえは離れていても、オレの心がおまえの許にあるように、おまえの魂もまたオレの傍に居てくれるんだな。
 夜寝る時も、朝目覚めてからも、そうだ、お勤めの時も、非番のときも、昨日のような災難の中でも、そしてこうして一人で居るときも、いつもおまえのことを考えている。
 オレはおまえの魂の近くにありたい、佐為。

 

 そして、体が回復した帥が、光を見舞ったのは、それから数日後のことだった。
「よう、近衛。おまえには世話になったな。折り入って話がある。少しいいか?」
 いつも通り無表情にそう言う帥の声が光の臥所に響いたのだった。



 つづく

*幽べる先生、今回も和歌の監修ありがとうございました。 

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